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トービン税
ベルギー下院でのスーザン・ジョージ報告
 
ベルギー下院 DOC51 1027/001グローバリゼーション特別委員会報告書「トービン税」より
スー ザン・ジョージ報告(2004年3月3日)

Exposé de Madame Susan George
http://www.lachambre.be/FLWB/pdf/51/1027/51K1027001.pdf

(校訂者註)本報告は、原報告書では議事録として三人称で書かれていますが、翻訳にあたっては、スーザン・ ジョージの口頭報告を再現するような文体で訳しました。
 主題に入る前に、多少、歴史を振返ってみたい。100年前の私たちの国の衛生や保健また住宅事情等は、今日私たちが南の国々で目にする事情と変わりがな かった。児童の死亡率は高かったし、平均寿命にしてもとても短く、現在の先進国とは大違いであった。

 19世紀のベルギーの科学者であり、天文学者及び統計学者として特に知られているアドルフ・ケトレ(Adolphe Quételet)は、栄養問題について多くの調査をした。当然ながら、当時は産業資本主義の勃興期で、工場労働者は生理的必要を満たすほどにも給与を受 け ていなかった。彼らは、まるで殺人を犯すおそれのある者のように、他人の命を危険に晒すことなくしては、それ以上落ちることのないほどに低く押さえつけら れていた。

 また初期社会学者ともいうべきヤコブ・リイスによってなされた19世紀末のニュー・ヨーク(NY)の研究もある。リイスはNY市の貧民窟について 『How the other half lives ?』という本を書いている。即ち『後の半分はどう生活しているのか』。敬愛するリイスに倣って、私は自分の処女作に『後の半分はどう死ぬのか』とタイトル をつけた(校訂者註:邦訳『なぜ世界の半分が飢えるのか』朝日選書)。リイスは栄養失調のNY、劣悪な住宅のNY等を描き出した。こうした状態はまさに南 の国々、当時は第三世界と言われていた国々について私が書きたかったことである。

 もし今日、ヨーロッパがその市民たちに、未だ不平等が存在するけれども、ともかく良好な生活条件を保証しているとするなら、それは100年来、改革主義 者たちが租税原理を導入して富の再分配をするために闘ってきたからである。彼らは、租税が全ての市民社会にあって必要なものであり、給与および資本から徴 収されたこの税収は、「公共」のサーヴィスとして再配分されねばならないと認識した。公共サーヴィスとは、教育や保健であり、いつ職場を失うかもしれない という労働者の不安を和らげ、親の死のために途方にくれる子どもたちに手を差延べるものである。

 今日、わたしたちは同じような状況を知っている、しかも世界的な規模での似たような状況を知っているのである。南の国々は、無残な生活条件以外に投機問 題を耐え忍ばねばならない。彼らの弱い通貨はしばしば投機対象として攻撃され、余儀なくされた平価切下げは悲劇的な結果を生んでいる。

 韓国は、資本逃避を防ぐために、かってないほど高く金利を上げなければならなかった。外国資本を国にとどまらせようと金利を20%、さらに22%までも 上昇させた。その間、船舶は港外に立ち往生し、貨物は直ぐにも代金が支払われなければ陸揚げされなかった。さらに、企業家は銀行に負債を返済できなくな り、企業は倒産に追いこまれた。

 同様な状況に1995年、メキシコがみまわれた。2万8000の中小企業が同じような原因で、即ち手形がおちなかったり、事業が急激に縮小したりして倒 産した。非常に多くの人が失業した。そうしてどうなったか。メキシコは現在半ば先進国と考えられている。確かにメキシコ社会の半分の生活程度はかなり高 い。ところが、58%が貧困層であり、平均的メキシコ人の生活レベルは1960年レベルなのである。

 アジアでは、インドネシアを危機が襲ったとき、3万の銀行従業員が1週間のうちに解雇された。

 結果として多くのアジアの人々が、特にタイの人たちが「IMF自殺」とよばれる死を選んだ。社会的保護が全くなく、どこに新たに就職する宛てもない人々 が、恥を偲んだり、飢えの恐怖を耐えるよりも自殺したり一家心中を選んだ。相次ぐ自殺は、まさに1990年代末期の疫病であった。

 これらの周期的な金融危機は、這い出そうとしている国々、中程度に発展した国々を見舞うのだ。

 トービン税または金融取引税には二つの目標がある。ひとつは投機によって引き起こされる劇的な危機を食い止めることである。今一つは、冷戦終結以来示さ れてきた無関心の故に、まさに世界地図から消されようとしている国々が負っている赤貧に対して闘おうとすることである。こうした国々にアメリカも、特にア メリカなのだが、その他の経済力のある国々も関心を払わない。

 トービン=スパーン税は上記の二つの目標を達成しうるだろう。投機的ではない静かな取引の場合には、0.01%を超えない極めて低い税率が適用される。 その一方で、1987年の証券危機以来ウォール・ストリートも採用しているあるメカニズムが用いられる。それは、重大な投機の動きが見られると自動的に発 動するメカニズムで、資本逃避を防ぐために20%まで至る禁止的税率を適用するのである(校訂者註:「80%」ではないかと思われますが、原文どおりにし てあります)。

 1992年にユーロが導入される以前、フランス銀行は、フランス・フランが投機で攻撃されたとき、フランス・フランを守るために、なんと一週間でドルの 外貨準備金の全てを取り崩してしまった。ジョージ・ソロス氏はポンド投機で10億ドル儲けたと新聞の一面記事に書かれた。こうしたことが、最も貧しく弱い 国々の通貨で起きたらどうなったことか考えてみて欲しい。

 この税収を開発援助に回そうという目標は、現在留まることを知らないほど減らされていく援助額、年間500億ドルになるこの援助額のことを考えれば充分 過ぎるくらい正当化できる。
 援助額はアメリカの場合、GNPの0.10%ほどだが、OECDの平均は約0.22%である。国連は35年来それを先進国の年度予算の0.7%まであげ るように要請してきたが無駄であった。この国連の目標値は、幾つかの北欧諸国とオランダ位が達成しただけで、これまで実現されて来なかった。国際的レベル で新しい原資を見つけなければならないことは明白である。その点、トービン=スパーン税は理想的解決である。この税は、その極めて低い税率の故に、実質的 に実態経済を犠牲にすることはないからである。

 実態経済にかかる取引は金融市場の実質的取引全体の2ないし4%であろうから、毎日の総額が1兆5000億ドルに上る市場規模からみればとるにたらない 数字である。
 個人的に私は、この税を「民主的条件性」と結びつけることを提案する。基金の運営を国連に任せるのである。この原資を使うためには、受益国は地理的配置 を考慮して構成されたひとつの評議会をつくることを受け入れねばならない。この評議会が全ての実質的勢力、即ち、女性、学生、企業家、勤労者、農民を代表 するだろう。この評議会が、政府と協力して、原資の割当に関して何を優先するかを決めるのが良いと思う。

 この方法を「参加型予算」という。これは多少違うやり方で、ポルト・アレグレ市をはじめとするブラジルの80都市で行われている。選挙で代表が送られた 評議会が、優先するプロジェクトを決める。結果として、汚職や無駄遣いが大幅に減った。それは、市民が彼ら自身の納めた税だということを意識して、予算の 使途をつぶさに見守るからである。

 この方法はまた南の国々が民主主義および市民の真の代表性を推進するためにも役立つであろう。

 それはIMFがしたように南の国々に条件を押し付けることでは決してない。そうではなくて、住民の民主主義的表現を保証することである。

 私は、貧しい国々の開発を確保するために税の導入を強調する。もしそうしないとするならば、「ブーメラン」効果でもって北が来るべき結果を甘受しなけれ ばならないだろう。2020年には、欧米の人口は世界の10ないし12%を構成するにすぎない。欧米人がなお象牙の塔にこもって生きられるとは考えられな い。彼らは環境破壊に直面しなければならないだろう。何故なら貧しい南の住民は、他に資源がないのだから、森を伐採し土地を疲弊させ水を汚染する以外ない だろう。大量の移民を食い止めるための壁などない。人類は貧困と荒廃を逃れる他の選択をもたないだろう。ハイチ紛争は人類を待ちうける予兆である。伝染病 が、有効な予防衛生の不備のために、貧しい国々に蔓延するであろう。こうした不安定がテロへと向かわせる。

 トービン税は寛大なアイデアだがユートピア的だといわれる。しかし、人間性にとって寛大さを示すことこそが肝心なのだ。第二次世界大戦後に米国が実施し たマーシャル・プランを想起して欲しい。このときアメリカはGNPの約3%をヨーロッパ再建のために充てた。確かに寛大な行為といえよう。しかしそれは同 時に、アメリカは経済拡大を有利にするために貿易相手を必要としたとも読めるのである。

 私たちは今日全く同じ状況にある。貧困、不平等、不正義は金持ちをも貧しくさせるのである。

 今日、市民はその代表者たちに自国を統治することを望んでいる。しかし、また世界的レベルで熟考することも望んでいるのである。グローバリゼーションは 必然であるが、その性格は変えることができる。金融取引税に技術的問題はない。その適用を拒否する唯一の理由は政治である。アメリカはおそらく、この国際 的課税提案に最後まで賛同を渋るだろう。だからこそ、ヨーロッパよ、ベルギーよ、パイオニアたれ。

2004年7月10日

翻訳:D.Y.TANABE
校訂:長塚 真琴

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